雇用保険ってなに?③
前回のブログでは、ハローワークが育児休業中の給料を補填してくれる「育児休業給付金」について説明をしました。
前回の記事はこちら:雇用保険ってなに?②
今回は「高年齢雇用継続基本給付金」について解説していきたいと思います。
現在は65歳までの雇用確保が義務化されています。
具体的には次のような雇用確保措置が求められています。
②定年制の廃止
③65歳までの継続雇用制度の導入
(定年年齢60歳、ただし本人が希望すれば65歳まで1年毎の再雇用を行う制度など)
では、日本の会社は上記の3つのうちどれを導入しているのでしょうか?
その割合を示したものが次の表です。
制度 | 導入会社の割合 |
---|---|
①65歳までの定年引上げ | 20.9% |
②定年制の廃止 | 2.7% |
③65歳までの継続雇用制度の導入 | 76.4% |
では、それぞれどのような給料体系になっているのでしょうか?
これは65歳までは正社員として働くものです。
そのため、お給料やボーナスが65歳まで保障されているようなイメージです。
②定年制の廃止
これは本人に退職する意思がない限り、正社員としてずっと働ける制度です。
つまり定年年齢を自分で決めることができる制度です。
お給料やボーナスは自分が決めた退職時期までは保障されているようなイメージです。
③65歳までの継続雇用制度の導入
これは正社員として60歳でいったん定年を迎えますが、本人が希望をすれば60歳以降も嘱託や契約社員として65歳まで働ける制度です。
ただし、60歳以降についてのお給料やボーナスは正社員の時と同じように保障されるわけではありません。
減ることが多く、ボーナスがでないこともあります。
やはり一番困るのは③のパターンなのですが、導入割合が最も高いので、困っている人もたくさんいることになります。
年金を当てにしたいところですが原則として65歳からしかもらえません。
そのため、60歳の定年後に継続雇用制度により嘱託として働いても、65歳になるまでの5年間の生活を少ないお給料でやり繰りしていかないといけません。
そんな時に助けてくれるのが雇用保険の「高年齢雇用継続基本給付金」で、ハローワークから貰うことができます。
これは次のような条件を満たす必要があります。
②60歳以降のお給料が60歳到達時の75%未満に低下している
もらえる給付金額ですが、以下のような感じです。
・賃金が61%を超え~75%未満に低下した場合…低下したお給料の15%から逓減された金額
例えばお給料が月30万円だとすると、次のようになります。
・20万円に下がった場合⇒16,340円の給付金
けして大きな金額ではないですが、それでもありがたいですよね。
ただし、この制度もいずれはなくなるかも知れません。
実は令和3年4月1日から定年について次のように法改正が行われました。
・定年制の廃止
・70歳までの継続雇用制度
これらはあくまでも「努力義務」なので、守らなくても怒られたりはしません。
これは定年を完全に65歳義務化にする前のワンクッションとして法改正されたのではないか思われますが、それがいつか実現してしまうと「高年齢雇用継続基本給付」の役割も終わることになるでしょう。
一方で、別の問題からこの制度をなくしたほうがよいのではないかという議論も行われています。
それは「この給付金があるから会社が60歳定年後の再雇用時にお給料を下げてしまうのではないか?」という問題です。
言い換えますと「この給付金の存在が会社の『高齢者のお給料の水準を維持しよう』という意欲を阻害しているのではないか?」ということです。
元々は再雇用時にお給料を下げる会社が多いからハローワークがこの給付を始めました。
ところがいつの間にか「ハローワークの給付金があるからお給料を75%未満に下げよう」という逆の発想になっている会社が増えているのです。
そのような会社の話を聞くと「お給料の原資を高齢者ではなく若年者に振り分けてあげたい」という会社の若年者に対する親心があったりします。
人件費の分配の方法としては一定の合理性もありますし理解はできるのですが、この給付金があるがゆえに、「高齢者のお給料は下げてもいい」という考えが肯定的なものとなって広く世の中に浸透してしまったような気がしています。
ただし、今後は2つの理由でそれらを見直す時期が必ずくると考えています。
今後は人手不足や若年者の採用が困難になることから高齢者の経験や知識に頼らざるを得ない時代がきます。
そうなるとお給料を下げたのに定年前と同じ活躍を求めるのはあまりにも会社の都合を押し付けすぎです。
高齢者の活用という点で給与水準の引上げが必要になってくるでしょう。
②同一労働同一賃金の考え方が世の中に浸透してきている
定年前と再雇用後の仕事内容や責任と度合いが同じなのにお給料が下がるのであれば同一労働同一賃金の視点から見た時に問題があります。
給与水準を下げるのであれば、それに見合った責任や働き方に変更するという考え方が必要になってくるでしょう。
途中から給付金の内容ではなく高齢期の働き方やお給料のことになってしまいましたが、それらはこれからも様々な議論を重ねられることになると思いますので、この給付金の在り方も含めて世の中の動きに注目していきたいところですね。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。