労災保険ってなに?③~通勤災害編~
前回のブログでは業務災害について解説を行いました。
前回の記事はこちら:労災保険ってなに?②~業務災害編~
今回は通勤災害について解説していきたいと思います。
業務災害は職種によって事故のリスクって違いますよね。
例えば、事務職をする方であれば仕事中に怪我をすることってあまり想定してないと思いますが、建設業であれば、ちょっとしたミスでいつ怪我をしてもおかしくありません。
ところが、通勤災害の事故のリスクは職種に関係なく、通勤距離や、通勤方法、時間帯、地域性、季節性などで変わってきます。
雨の日に自転車で通勤していたらマンホールの上でタイヤが滑って転倒するかも知れませんし、自動車で通勤していたら信号待ちで後ろから追突されるかも知れません。
電車通勤でも脱線事故が起こらないとも限りません。
そのため、通勤災害は「自分にも起こり得るかも」という意識はどの職種の労働者も常に持っておく必要があります。労働基準監督署に通勤中の事故を通勤災害と認められるには、その移動する行為が「通勤」と認められる必要があります。
では、そもそも「通勤」とはなんでしょうか?
通勤とは簡単に言うと「仕事中の業務命令として移動するのではなく、会社に出勤して仕事をするために、あるいは勤務終了後に自宅に帰るために、下記①から③の移動を、『合理的な経路及び方法』で行うこと」を指します。
②会社から他の会社への移動
③単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居の移動
では①から③を簡単に解説していきます。
①住居と会社との往復
住居とは、労働者が日常生活を行っている家屋等で、本人の就業のための拠点となっている場所です。
台風等で臨時に宿泊するホテルなども一時的な住居とみなされます。
また、家族の病気の看護のために病院に宿泊してから出勤した時の通勤途上の事故についても、通勤災害と認められるようですので、その病院を一時的な住居とみなすようです。
ちなみに、友人宅で徹夜で麻雀をして、そこから直接出勤していた途中の事故の場合、友人宅は一時的な住居とみなされないため通勤災害にはなりません。そのため、麻雀好きな方はお気を付けくださいね。
また、「不特定多数の者が通行を予定している場所」を往復途上と見ているようですので、アパートの自室に入るまでの階段などの転倒事故は通勤災害として認められますが、一戸建ての屋敷構えの住居の玄関先での転倒事故は住居内の災害として通勤災害が認めれません。
そうしますと、戸建ての敷地内であれば医療保険、敷地外であれば通勤災害として労災保険が適用されることになるので、変な話「どちらで転倒した方がトクか?」というと、労災保険のほうが医療保険より圧倒的に給付内容が手厚いので「敷地外で転倒したほうがトク」ということになってしまいます。
そのため、敷地内を通る時は特に気を付けて歩いて下さいね。
②会社から他の会社への移動
これはいわゆるダブルワークをしていて、最初の勤務先から次の勤務先へ移動していることをイメージしてもらえればと思います。その移動中に災害にあった場合は、通勤に該当しますので、通勤災害として認められます。
(労災の手続きは、移動元ではなく移動先の会社で取り扱うこととなっています)
ちなみに、仮に副業禁止規定に違反してダブルワークをしていたとしても、通勤災害の対象となりますので安心して下さい。ただし規程違反として会社から何らかの懲戒処分を受けるかも知れません。
③単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居の移動
ここを理解しやすくするためにクイズ形式でお話しをしていきますね。
福岡で勤務していたA君は、会社から東京の営業所へ異動を命じられました。
A君は独身で、福岡の実家に住んでいます。
両親はとても元気なので介護の心配はないのですが、異動を命じられA君は親孝行をしたいという気持ちが更に強くなりました。東京に引っ越したA君は、仕事のない週末に東京のアパートから福岡の実家へ、良心の顔を見るためによく帰省をしていました。
その福岡と東京の往復の途中に災害に巻き込まれた場合、通勤災害になるのでしょうか?
答えはNOです。
東京のアパートが自宅となり、そこと東京の営業所との往復が通勤になります。
従って東京と福岡の移動は通勤ではないため、通勤災害とは認められません。
A君はB子さんと結婚をして高校2年生になるC子さんと3人で福岡に暮らしています。
そんな時にA君は東京へ異動を命じられました。B子さんからは「C子さんは来年受験だからこれからの1年はとても大事な時期だわ。なので私とC子さんは福岡に残るわ」と言われたので、B子さんとC子さんを福岡に残し単身赴任をすることを決めました。東京に引っ越したA君が仕事のない週末に東京のアパートから福岡の自宅へ家族と過ごすためによく帰省をしていました。
その福岡と東京の往復の途中に災害に巻き込まれた場合、通勤災害になるのでしょうか?
答えはYESです。
(福岡に帰省する時は出勤日の当日または翌日までの移動、東京に戻る時は出勤日の当日または前日までの移動という条件などはあります)
同じ往復という行動なのに、なぜ答えが違うのでしょう?
簡単に言うと、「やむを得ない事情」により帰省先に移動しているかどうかで、その移動が通勤に該当するかどうかが判断されます。
❶の場合、A君の親孝行したいという気持ちはわからないではないですが、「やむを得ない事情」とまでは言えないため、その移動は通勤に該当せず、通勤災害として認められないのです。
一方❷の場合、A君は妻であるB子さんはもちろん未成年であるC子さんと一緒に暮らすことが本来の健全な家族の姿であるにもかかわらず、業務の都合で離れて暮らしています。
そのような事情は「やむを得ない事情」と判断されるため、その移動は通勤とみなされ、通勤災害と認められるようです。
この「やむを得ない事情」には子供だけでなく家族の介護などの事情も含まれていますが、要件が細かく決められており限定的になっていますので、ご注意いただければと思います。
通勤と言っても意外と奥が深いことをなんとなくご理解いただけたのではないかと思いますが、次回のブログでは「合理的な経路及び方法」について解説していきたいと思います。
これもなかなか奥が深いので、次回のブログをお楽しみにお待ちください♪
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。